2022年11月12日(土)
午後16:30-18:30

  • 「映像と時間──レトロ/プロ=スペクティヴについてのいくつかの覚書」

基調講演 ホー・ツーニェン(アーティスト)
新井知行(YPAM – 横浜国際舞台芸術ミーティング)
木下千花(京都大学)
大坂紘一郎(アサクサ・京都芸術大学)
司会:馬定延(関西大学)


 近年、日本で制作・発表した《旅館アポリア》(2019年)、《ヴォイス・オブ・ヴォイド-虚無の声》《2021年》、《百鬼夜行》(2021年)を通じて広い関心を集めたアーティスト、ホー・ツーニェン(シンガポール、1976年生まれ)氏を招いたシンポジウム。ホー氏は未解決の諸歴史を再考するにあたって、ヴィデオ、アニメーション、アルゴリズム・システムなどのさまざまな実験を行ってきました。その批評的方法論に重点を置いた基調講演を受けて、これまでの20年の映像表現の実践から「時間」をめぐる新作へ導く航路を、3人の登壇者とともに探ります。【馬定延】

 時間に対して、過去・現在・未来という、少なくとも三つの「層」あるいは種類について考察することができるでしょう。未来は、開かれていて不確定な、推測と予期の層であり、ユートピア/ディストピア的エネルギーの容器です。過去は、確定され凍結している層のように見えますが、実際には新しい言説の体制によって常に再演・修正・再構成されています。しかし、私にとってより重要なのは、過去の中に、再帰的・回帰的なある種のエネルギーが存在しているということです。それは、脱植民地化というプロジェクトのような、未完の何かとしての過去です。これらのエネルギーは、トラウマ、あるいは亡霊のように、絶えず回帰し現在に取り憑きます。つまり、私にとって現在とは、未来と過去の両方に向かって果てしなく分岐しつづける合成物のようなものです。この基調講演では、文字通りにであれ、隠喩的にであれ、制作のプロセスによって与えられる性質としてであれ、異なる時間性の共存で特徴づけられている諸映像に注目することで、過去20年(ほど)にわたる私の映像制作の実践を、回顧的(レトロスペクティヴ)/予測的(プロスペクティヴ)に概説することを試みます。【ホー・ツーニェン】