新刊紹介

ポール・ヴィリリオ
『パニック都市―メトロポリティクスとテロリズム』
竹内孝宏(訳)、平凡社、2007年03月

2004年に原書が刊行されたこの『パニック都市』は、もはや「偉大なるマンネリズム」の境地にまで到達したかにみえるヴィリリオ的「決め台詞」をそここに散りばめたいかにもヴィリリオ的な書物であるのと同時に、じつは「9.11」のテロをひそかな主題のひとつにしているのが注目される。あのテロリズムが、伝統的なスタイルの「戦争」とはなんの共通点もないという事実くらいなら、われわれもすぐさま理解することができたはずだ。しかしヴィリリオはさらにその先に進み、「9.11」はすでに伝統的なスタイルのテロリズムですらなく、メディア・イメージによって都市にパニックを引き起こすという前代未聞の戦略を採用したハイパーテロリズムであるというように規定する。21世紀の都市生活者であるわれわれは、ヴィリリオによれば、いまやメディアによるイメージ操作に抵抗してそれを告発するとかなんとかいう程度の知的姿勢を保つだけでは不十分なのであり、そこに潜むハイパーテロリズム——これは「事故」と区別がつかないだけではなく「現代芸術」とも重なり合うものがあるとヴィリリオは指摘している——の可能性をつねに警戒しながら、しかしパニック(心的恐慌)に陥ることなくやっていなければならないという、かなり抜き差しならない地点にまできてしまったのである。本書は、まさしく第三千年紀の新戦争論として、ヴィリリオの履歴としてもいずれ特別な位置づけをあたえられることになるだろう。 (竹内孝宏)