新刊紹介

原 克
『暮らしのテクノロジー―20世紀ポピュラーサイエンスの神話』
大修館書店、2007年03月

 楽しそうな研究である。『ポピュラー・サイエンス』『サイエンティフィック・アメリカン』『科學畫報』などポピュラー系科学雑誌の古いバック・ナンバーをめくり、ショッピング・カート、自動ドア、パーキングメーターなど、暮らしに密着した20世紀の発明工夫が、人びとの心のなかで何であったのか、何の表象であったのか、を浮き彫りにしていく。「花粉症グッズ」や「アルコール検出器」などにも12の章の1つを割き、後半は車文化と空間処理に焦点を合わせて、終章が「カーナビ」。自動ピアノにも原理の似た1906年の装置から話をおこして、「いま私はどこ?」を知るための技術史の魅惑の核心を追っていく。
  予測可能な本と予測するなかれ。記事から掘り出される「意外な事実」以外にも、驚きや肩すかしのための仕掛けに満ちている。なかでも痛快なのが、話のまくらと締めに使う作品の予測不能さだ。カフカ、谷崎、安部公房からもっと「しぶい」作家までどんどん出てくる。回転寿司のアタマに『人造人間キカイダー』が来たと思ったらカーナビの導入は『純粋理性批判』だったという具合で、こういう本こそ大学教養課程にうってつけ──というか、「ポピュラー」なテーマによる表象論は、過去の「人文的教養」を包摂して、すでに教養教育の柱になっていることを納得させられる読書であった。 (佐藤良明)