編著/共著

乾智代、ほか(分担執筆)
新・フェミニズム批評の会(編)

昭和前期女性文学論

翰林書房
2016年10月
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本書は「新・フェミニズム批評の会」の編集による、『明治女性文学論』『大正女性文学論』に続く日本文学における近代女性文学論シリーズ第3弾である。編者である「新・フェミニズム批評の会」は、これまでの日本文学史上ではあまり光が当てられることがなかった女性作家やその作品をフェミニズム/ジェンダー批評を取り入れて正当に評価し、日本の文学史を書き換えることを目指して活動を続けてきた。

本書では総勢36名の執筆陣が1920年代半ばから1940年代半ばまでの激動の時代の女性作家をとりあげて論じている。この時代は大衆消費社会の発展とモダニズムの流行、プロレタリア運動の興隆とその弾圧、外に向かっては大日本帝国の版図拡大という状況で始まり、その後時局は戦時下の国家総動員体制の成立へと向かっていったが、この時期は同時に女性文学の興隆期でもあり、特に言論統制が厳しくなった1940年前後には女性作家の作品がもてはやされた。本書では複雑かつ多様化した女性たちの表現や活動を捉えるために、論点をテーマ別に「関東大震災以後のモダニズム」、「プロレタリア文学─労働・闘争・抵抗」、「帝国の〈外地〉と〈内地〉」、「戦争とジェンダー」、「女性文学の成熟と展開」の5章に分けている。

急激なグローバリゼーションと資本主義の発展、帝国主義の伸長と敗戦によるその崩壊に直面したこの時期の女性作家の作品には、観念的な表現の深化が見られ、世界的な支配秩序の中の個人の位置付けを問うものが現れる。例えば紹介者が担当した川上喜久子の作品では、植民地の知事の娘としての葛藤の体験が、女性の身体と言語の関係を問うという、言語による表象行為の原点を探りにいく試みに転化されて表現されている。

一部の作家を除いては、あまり表象文化論的な視点で論じてこられなかった観のある日本女性文学の世界であるが、いったん論じれば興味深い論点が現れるのではないか。本書がその接続の役割の一端を果たすことを期待する。

(乾智代)

広報委員長:横山太郎
広報委員:江口正登、柿並良佑、利根川由奈、増田展大
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2017年3月29日 発行