トピックス 3

大学・地域・連携シンポジウム:映像、アマチュア、アーカイヴ

大学・地域・連携シンポジウム:映像、アマチュア、アーカイヴ

大学・地域・連携シンポジウム:映像、アマチュア、アーカイヴ


日本のさまざまな地域に遺された日常的な写真や映像をアーカイヴ化する試みが各地で進んでいる。それらは政府やマスメディアのような機関によって撮影された公式な記録とは違って、撮影者——多くはアマチュア——の身の回りの些事を断片的に撮影したものである。そうしたイメージ群は、国家が紡ぎだす大きな物語の周縁にあり、また資本主義市場の枠外に存在し、とるに足らないものとして見過ごされてきた。しかし、それは日本のあらゆる場所で撮影され、少なからぬ分量がいまだ遺っている。

それらは、あくまでも切れ切れになった言葉の断片のようなもので、一見したところはそれからメッセージを読み取ることは不可能であるようにも思える。しかし、そこにあるのは、ナショナルな物語の対極にある、市井の人々と記録技術の等身大の交わりが紡ぎ出すミクロヒストリー、すなわち「小さな歴史=物語」なのである(佐藤守弘「シンポジウム報告『映像とミクロヒストリー』」『大正イマジュリィ』No.8、大正イマジュリィ学会、2013年3月、6-15)。

そのような地域的なイメージをアーカイヴする試みのなかでも、たとえば新潟大学人文学部の地域映像アーカイブセンター——私も講演や執筆などで多少、関わっている——は、2008年から活動をはじめ、写真、映画、放送などという映像メディアをデジタル化するかたちで、整理、保存してきた。シンポジウム、講演や展覧会なども定期的に行い、その成果はデータベースの限定公開や論集『懐かしさは未来とともにやってくる——地域映像アーカイブの理論と実際』(原田健一、石井仁志編、学文社、2013年)の出版へと結実した。

2014年3月、神戸において2日間にわたって行われた大学・地域・連携シンポジウム「映像、アマチュア、アーカイヴ」は、そのような地域映像のアーカイヴ/データベース化の試みを、いわば横につなぐ試みであった。前述の新潟大学人文学部と、神戸大学地域連携事業「映像を媒介とした大学とアーカイブの地域連携」、京都大学研究資源アーカイブ神戸ドキュメンタリー映画祭実行委員会の共催で行われたこのシンポジウムは、水島久光——登壇者のひとりであり、日本におけるパテ・ベビーのアーカイヴ化を進めている研究者——のいうように「アーカイヴをアーカイヴィング」する試みであったといえよう。(注記:本稿では、Archiveを「アーカイヴ」「アーカイブ」と書き分けているが、それはプロジェクトなどによる表記に従っている)。

初日、3月1日は、神戸大学瀧川記念会館で「映像が生み出すもの──アマチュアとアーカイヴ、そして……」というタイトルのもと、2つのパネル・ディスカッションが行われた。第1部「セオリー:映像・アマチュア・アーカイヴ」は、理論的なアプローチであり、アマチュア写真と瞬間の問題、9.5mmの小型フィルムであるパテ・ベビーとシネマトグラフの関係、劇映画における日常性という幅広い論点から映像におけるアマチュア/日常性とアーカイヴの問題をつなぐ試みであった。第2部「ケーススタディ:アマチュアと映像をアーカイヴィングする」は、より実例に則したアプローチであり、新潟の地域映像アーカイブからは明治期の今成家に遺された写真および、行形亭という料亭に遺された映画、神戸映画資料館のアーカイヴでまとめて発見された大阪のアマチュア作家、森紅の映画、さらに京都大学総合博物館に遺る学術探検写真というさまざまな映像群を通じて何が読み取れるかを探る諸発表が行われた。

二日目の3月2日は、会場を神戸映画資料館に移し、神戸において大学および資料館が協力して行われている映画のアーカイヴィング・プロジェクトにまつわる映像の上映や実践的な報告がなされた。調査の過程で見出されたアーカイヴの活用の可能性に関する学術的な報告から、デジタル化の実践過程に役立つ技術的なプレゼンテーション、さらには神戸映画資料館所蔵の貴重なフィルムの上映まで、幅広いプログラムであった。2日目の成果は、報告書『神戸の映像文化——「神戸と映画」「神戸映像アーカイブプロジェクト」の取り組み』(神戸ドキュメンタリー映画祭実行委員会、2014年3月)にまとめられている。

大学や研究所、公的機関などでの映像アーカイヴの取り組みは、まだ端緒についたばかりであり、可能性とともにさまざまな問題点が出てくるであろう。「文書館」という意味でのArchivesとフーコー的な含意を含むArchiveとは、どのようにつなげられるのか。文書館での伝統的なアーカイヴの取り組みと映像アーカイヴの取り組みはどのように違うのか。アーカイヴとアーカイヴはどのようにつないでいくのが良いのか(EUで行われているEuropeanaはひとつの先行例となるかもしれない)。本シンポジウムでその答えが出たとは考えられないが、とくに理論的なフレームワークの整理も含めて、今後も検討を積み重ねていかなければいけないであろう。(佐藤守弘)


プログラム
第1日目(3月1日):神戸大学瀧川記念学術交流会館
「映像が生み出すもの——アマチュアとアーカイヴ、そして……」

第1部「セオリー:映像、アマチュア、アーカイヴをめぐる」
司会:佐藤守弘(京都精華大学)
・前川修(神戸大学)「写真、アマチュア、アーカイヴ」
・松谷容作(神戸大学大学院人文学研究科研究員)「パテ・ベビー、静止と動きの間で——1920年代?40年代の日本における映像と批評の関係についての一考察」
・板倉史明(神戸大学)「ホームムービーを映画学的に考察する」

第2部「ケーススタディ:アマチュアと映像をアーカイヴィングする」
コーディネーター:原田健一(新潟大学)
・榎本千賀子(新潟大学)「六日町の明治期アマチュア写真——今成家写真の想像力と通俗道徳・都市文化」
・原田健一「にいがた、花街と料亭——場所が媒介する人と映像」
・松谷容作「映像と声のコミュニケーション——森紅〔もりくれない〕のパテ・ベビー作品を中心として」
・山下俊介(京都大学総合博物館)「学術探検写真とアマチュア」

第3部「ディスカッション:アーカイヴをアーカイヴィングするために」
司会:水島久光(東海大学)
登壇者:板倉史明、榎本千賀子、佐藤守弘、原田健一、前川修、松谷容作、山下俊介


第2日目(3月2日):神戸映画資料館
「映像というモノと地域をアーカイヴする」
第1部「関連上映」
「神戸映像アーカイブプロジェクト」(実施:神戸ドキュメンタリー映画祭実行委員会)による調査で発見されたフィルムの上映(フィルム上映)
 
第2部「神戸映画資料館所蔵資料のアーカイヴィングの試みと成果」
・板倉史明(神戸大学)「本プロジェクトの成果報告と今後の課題」
・大崎智史(神戸大学人文学研究科博士課程前期)「神戸映画資料館所蔵資料の整理と活用の可能性」
・近藤和都(東京大学大学院学際情報学府修士課程)「「映画館プログラム」のデジタルアーカイヴ化と研究活用の可能性」
・松尾好洋・柴田幹太(株式会社IMAGICAウェスト)「簡易フィルム検査装置「手テレ」の開発」
・北浦寛之(国際日本文化研究センター)「興行からみた日本映画の黄金期から斜陽期」

第3部「神戸、地域からみえるもの、そして映像がつなげるもの」
コーディネーター:水島久光(東海大学)
上映作品:濱口竜介監督による神戸人インタビュー2、神戸映画資料館所蔵の9.5mm映像ほか
登壇者:濱口竜介(映画作家)、松本篤(NPO法人記録と表現とメディアのための組織 [remo])

第4部「上映:映像作家・森紅の9.5mm作品」
神戸映画資料館が収蔵する9.5mmフィルムの調査の過程で「再発見」されデジタル化された伝説の映像作家・森紅の作品を厳選して上映(DV上映)