日時:2007年6月30日(土) 14:00~17:00
会場:東京大学駒場キャンパス18号館ホール

【パネリスト/発表タイトル】
・山内志朗(慶応大学)「反表象論の構図と一つのヒストリー──アメリカにおける魔術と表象」
・坂元伝(シンガポール国立大学)「ポストヒューマンの時代における建築と表象──ニューヨーク・ハイラインプロジェクトを通して」
・佐藤良明「サイボーグ獣<ボクラ>の現在」

【コメンテーター】
リピット・水田尭(南カリフォルニア大学)

【司会】
北野圭介(立命館大学)


生に関わる諸学における方法論的刷新、表現テクノロジーの新たな展開、地政学的概念の再調整が大規模にすすむなか、わたしたちが住まう世界は、大きく変容しつつある。また、そうした変容とともに/のなかで、わたしたちの存在様態、また、わたしたちをとりこ囲むさまざまな表象あるいはイメージの様態も、大きくそのすがたを変えつつある。

人間概念そのものの再検討が活性化し「ポストヒューマン」「動物」「サイボーグ」という用語が広く人口に膾炙しはじめていること、あるいは、もはや「仮想現実」という言葉ではなく「人工現実」や「複合現実」という言葉が技術論では主たる用語になりつつあるということ、さらにはまた表現実践の解析に身体や情動といった新たな視角を再導入せざるをえなくなったことなどにも、変容の時代のあらわれは触知できるものかもしれない。端的にいえば、媒体の展開は果たして人間を拡張したのかどうか、それを真摯に問い直すべき時をわたしたちは迎えているのかもしれない。

こうした大きな変容を、とりあえず「拡張するユマニテ、揺動する表象」 という構えで枠付けつつ照射すること、とはいえ、大きな言葉による外挿法で解決を擬装することではなく、存在と表象をめぐる個別・具体的な事象にあくまでとどまりながら事態の真の表情にアプローチする回路を探ること、それがこのシンポジウムの趣旨である。

コンピューター化がすすむなかでの空間デザインの問題と直面する建築学的思考の只中から、想像イメージを画面のなかで視覚化してきた映画的表現への解釈論的注視から、さらには、哲学的思惟における表象/イメージの位相の変遷という観点から、新たな世紀における、存在と表象の新たな関係性の行方を問い直す、それがここでかけられる賭金である。

北野圭介(きたのけいすけ)
1963年生まれ。ニューヨーク大学大学院映画研究科博士課程中途退学。新潟大学人文学部助教授を経て、立命館大学映像学部教授。学部(大阪大学人間科学部)で哲学を、ニューヨーク大学ではアネット・マイケルソンのもとで現代芸術批評を学んだ経緯もあり、関心は視覚イメージに関する多くの分野にわたる。著書に『ハリウッド100年史講義』、『日本映画はアメリカでどこまで観られてきたか』(共に、平凡社新書)、論文に「<タブロー>と<仮面>の間」(『思想』、2007年5月号、岩波書店)など。人文書院のHPでデジタル映像に関する論考「映像論序説」を連載中。

坂元 伝(さかもとつとう)
1965年生まれ。コロンビア大学大学院建築科修士取得。現在、シンガポール国立大学建築学科アシスタント・プロフェッサー。ニューヨークで、ベルナール・チュミ、スタン・アレンに師事し、設計活動と理論研究に従事する。アーキテクチュアル・リーグ・オブ・ニューヨーク新人賞、ニューヨーク・ハイライン・デザイン・コンペティション、特別審査員賞を受賞。共著にFactory Transformed (AAN出版)、The House Book (Phaidon)など、論文にKenzo Tange’s Discourse on Tradition: Texts and Photographs of Hiroshima Peace Center in 1954 (Journal of Southeast Asia Architecture,Vol.7,2004) などがある。

佐藤良明(さとうよしあき)
1950年生まれ。東京大学大学院(英文科)博士課程中途退学。20世紀後半のアメリカを発信源とする文学・思想・音楽・映像の大局的な分析を続けてきた。東京外語大、東京大学(表象文化論)での教員生活を経て、2007年4月フリー。文学・音楽・英語をネタに執筆活動を展開中。主な著書に『ラバーソウルの弾みかた』(平凡社ライブラリー)『郷愁としての昭和』(新書館)『J-POP進化論』(平凡社新書)など、訳書にTh・ピンチョン『ヴァインランド』、G・ベイトソン『精神の生態学』など。

山内志朗(やまうちしろう)
1957年生まれ。東京大学大学院単位取得。新潟大学人文学部教授を経て慶應義塾大学文学部教授。専門は倫理学、中世哲学。専門であるスコラ哲学だけでなく、現代思想、現代社会論、コミュニケーション論、身体論、修験道、ミイラ論、冗長性など雑多なことを研究している。著書に『普遍論争』(哲学書房)、『天使の記号学』(岩波書店)、『ぎりぎり合格への論文マニュアル』(平凡社新書)、『〈つまずき〉のなかの哲学』(NHK出版)などがある。

リピット水田堯 (りぴっと・みずた・あきら)
1964年米国コネチカット州生まれ。映画・視覚文化論、比較文学。サンフランシスコ州立大学、カリフォルニア大学アーヴァイン校などを経て、 2005年より南カリフォルニア大学映画・テレビ研究科および比較文学・東アジア言語文化研究科教授。城西国際大学メディア学部客員教授。著書に『エレクトリック・アニマル──野生動物の修辞学にむけて』(ミネソタ大学出版)、『アメリカ研究とジェンダー』(共著、世界思想社)、近刊著に『アトミック・ライト(影の光学)』、『エクス・シネマ──実験映画試論』。