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第12回大会|パネル5:芸術の自然史─無機的なものの生命化の位相

日時:2016年7月2日(日)10:00-12:00
場所:前橋市中央公民館5階501学習室

パネル概要

・アナロジーから分類へ──啓蒙主義時代の建築理論と自然史におけるモルフォロジー/小澤京子(和洋女子大学)
・ 水晶とカテドラル──ヴィオレ・ル・デュクの構造概念/後藤武(後藤武建築設計事務所)
・ 結晶、機械、芸術作品──ジル・ドゥルーズ「非有機的生命」概念の対象における差異と反復/石岡良治(青山学院大学)
【コメンテーター】岡田温司(京都大学)
【司会】後藤武(後藤武建築設計事務所)


 18世紀後半から19世紀にかけて、ヨーロッパの芸術史の確立には、比較解剖学を中心とする自然史研究のパラダイムが大きな影響力を持った。一つの原理という折紙を折り分けるように、甲殻類から哺乳類に至る多様な有機体が生成する仮説を構想したジョフロワ・サン=ティレールや、地質から植物、動物が種をこえてメタモルフォーゼしていく原理を生み出したヴォルフガング・フォン・ゲーテらによる自然史の原理は、ヴィオレ・ル・デュクやゴットフリート・ゼンパーによって芸術に適用され、芸術の歴史がトランスフォルミスムとして定式化されていく。
 本パネルでは、18世紀末から20世紀にかけてのヨーロッパにおける自然史と芸術史との関係を解剖する。小澤は、啓蒙主義時代における建築理論の変容が、形態と分類をめぐる概念を鍵として、同時代の自然史や生理学の思潮と共通の認識枠組を持っていたことを示す。後藤は、19世紀の建築史家デュクが自然史における形態学や有機体についての思考に基づき、建築の構造解釈を行おうとした点に着目し、その建築思想の新たな解釈を行う。石岡は、20世紀の初頭に中世北方ヨーロッパのゴシック美術の無機的で抽象的な装飾の中に表現的な生命の力動を見出したヴィルヘルム・ヴォリンガーに対する、ドゥルーズの分析(「非有機的生」概念など)の創造的解釈を試み、従来の哲学研究が到達できなかったその美学的・美術史的な意義を導出する。
 芸術の自然史を辿り直すこと。それは決して全体主義的な有機体論に同化することでも、アントロポモルフィスムに回帰することでもない。本パネルの目的は、芸術作品における無機的なものの生命化の位相を精査し、現代において芸術を思考することの可能性を開くことにある。


アナロジーから分類へ─啓蒙主義時代の建築理論と自然史におけるモルフォロジー
小澤京子(和洋女子大学)

 啓蒙主義時代のフランスでは、建築の形態と分類をめぐる言説が、類似関係に基づくものから、体系的な分類学を志向するものへと、次第にしかしラディカルに変移していく。この移行は、自然史におけるアナロジーから分類学へという動向とも一致する。
 発表者はすでに、フランス革命期の建築家ルドゥの建築思想と同時代の観相学との間に共通の発想があることを明らかにした。本発表では、18世紀半ばから19世紀初頭のフランスで執筆・刊行された建築書(J.F.ブロンデル、ブレ、ルドゥ、カトルメール・ド・カンシー、J. N. L.デュラン)の言説と図面に対象を広げ、建築理論に現れた認識の変化を解明する。 
 この時代の自然史や生理学の動向は、17世紀のル・ブランからラヴァーターやカンペルを経て、キュビエやサン=ティレールの比較解剖学へと変質しつつも受け継がれていく観相学・骨相学的な発想と、リンネによる体系的分類の完成に概括できる。当時の建築理論と自然史をつなぐのが「カラクテール(性格/特徴)」という語であり、これは「目に見える外観上の特徴」とより内在的な機能や抽象的な分類とを結びつける概念であった。またこの概念は、事物の外観の「可読性」を基に体系化と分類を試みる発想に支えられており、これは同時代の事典編纂や普遍言語探求の思潮とも共通する。
 啓蒙主義の時代における、建築構想と自然史との間に存在した思考の共通基盤と、その変移の(ときに矛盾や撞着を含んだ)プロセスとを明らかにするのが、本発表の目的である。


水晶とカテドラル─ヴィオレ・ル・デュクの構造概念
後藤武(株式会社後藤武建築設計事務所)

 ヴィオレ・ル・デュクは『中世建築辞典』第8巻の項目《le style》において、植物や鉱物、山脈の地形形成から建築物に通底するかたちの生成原理として、《le style》という概念を提起する。自然界の生成物にはすべて《le style》が存在するが、人工物たる建築物で《le style》を保有するものは少ない。だから《le style》のある建築物を設計する方法論を見出す必要があるとデュクは論じる。この論理には、ラマルクとジョフロワ・サン=ティレール、そしてヴォルフガング・フォン・ゲーテの自然史を巡る思考が流れこんでいる。デュクがかたちの生成原理のモデルとして考えるのは、水晶の結晶構造だ。ゴシック建築の構造原理もまた、水晶の結晶構造とのアナロジーで解読される。さらにデュクのゴシック建築の構造解釈において特徴的な概念として、「均衡の原理」がある。デュクによればゴシック建築は切石組積造の中で最も高度な構造原理に辿り着いたが、その原理を端的に説明するものの一つが「均衡の原理」だ。例えばディジョンのノートル・ダム大聖堂は、諸力が拮抗する動態的な状態として静止している。不動の量塊ではなく、生きて作動している有機的な全体だとデュクは主張する。
 本発表は、人工物としてのゴシック建築を動態的な運動において捉えるデュクの構築思想を具体的に分析することを通して、デュクの構造理論に新たな解釈を与えることを目的とする。


結晶、機械、芸術作品─ジル・ドゥルーズ「非有機的生命」概念の対象における差異と反復
石岡良治(青山学院大学)

 ジル・ドゥルーズ(1925-95)の「非有機的生命vie non-organique」概念は、彼の哲学を特異な生気論として特徴付けており、芸術論でも重要な役割を演じている。フェリックス・ガタリ(1930-92)との共著で展開された有機体への批判的考察は、「器官なき身体」としての「欲望する諸機械」という観点から身体論を刷新しつつ、芸術作品をも「機械」として捉える美学を打ち立てた。そこでは「生命」を有機体的な生気論の諸含意から解き放ち、芸術創造を既存の尺度に切り詰めることなく思考することが目指されていたといえるだろう。
 けれどもドゥルーズの芸術論では、映画と絵画をともに「変調modulation」から考察するなど、対象領域の種別性を取り逃がすかのような記述がしばしばみられる。自著を引用しない代わりに、様々な対象に対して同じ説明を反復することで生じているこのような傾向性を、どのように捉えたらよいのだろうか?
 本発表は、ドゥルーズの「非有機的生命」概念にかかわる説明の反復について、美術史家ヴィルヘルム・ヴォリンガー(1881-1965)の著作を手がかりに解明を試みる。ヴォリンガーのゴシック論に「非有機的生命」の範例を見出すドゥルーズは、しばしば本質主義的・民族主義的に解されてきたヴォリンガーの芸術論に新たな射程を与えるのみならず、ゴシック装飾という記述対象に取り組むことで、ドゥルーズの芸術論にひとつの脈絡が生まれている点に着目する。

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