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「表象文化論学会」設立にあたって(設立趣意書)

 世界規模の社会の激動とともに、文化状況もまた加速度的に多様化し流動化しつつある現在、その変容の力学を正確に捉え、精密に分析し、さらにそこで得られた研究成果を文化創造の現場にフィードバックしてゆくことを責務とする人文科学的な〈知〉が求められています。それは、文学や芸能といった伝統的なジャンルから始まって、テレビ、映画、情報ネットワークなどが形成する現代的なメディア空間とそこに生起するポップ・カルチャーに至るまで、多種多様なイメージ現象の解明をめざして、理論と実践の両面における果敢な実験を恐れない、柔軟にして厳密な知的営為でなければなりません。

 表象文化論は、「表象」(representation)の分析という観点から、文化事象全般に対して批評理論に立脚した学術的アプローチを行いつつ、大学における研究と社会での文化創造のアクチュアリティとの間の架橋を企ててきました。哲学においては「再現=代行」であり、演劇では「舞台化=演出」、政治的には「代表制」を意味するこの「表象」という概念が、さまざまな文化的次元の関係性の核を表わすキー・コンセプトとしてきわめて有用かつ生産的であることは、すでに十分に証明されたと言えるでしょう。

 表象文化論は、文化的事象を孤立した静的対象として扱うのではなく、それが生産され流通し消費される関係性の空間、すなわち、諸力の交錯する政治的でダイナミックな「行為」の空間の生成と構造を考察しようとするものです。こうした志向性から表象文化論は、アート・マネージメントや文化政策、さらには芸術作品の制作それ自体にまで及ぶ数々の実践的課題にもまた積極的に取り組んできました。それは、文化と芸術の諸問題を緻密に分析しながら、みずから実践的なネットワークを形成しそれを内にも外にも繁茂させてゆく、実験精神に富んだ創造と実践の学なのです。

 こうした果敢な実験精神を共有する研究者・表現者・アーティストの潜在的なネットワークに、現実的な枠組みを賦与することを目的として、このたび「表象文化論学会」が設立されようとしています。

 本学会は、既存の学問・芸術ジャンルに囚われず、絶えず越境と横断を繰り返しつつ未知のフロンティアを開拓しようとする若々しい精神たちに、豊かで生き生きとした「交通」の可能性を開きたいと願っています。学問の概念それ自体が根底から問い直され、人文知の再定義と再編成が社会から要請されている今、硬直した「専門」の殻に閉じ籠もった同業ギルドの如き旧態依然たる「学会」のありかたももはや時代から取り残されつつあります。われわれの「表象文化論学会」は、専門家集団による硬化した組織体からははるかに遠ざかり、関係性のネットワークを絶えず組み直し組み替えてゆく自由な運動体でなければなりません。

 われわれは、いま、国籍も専門領域も問わない多数の研究者・表現者・アーティストとともに、予測不能な出来事に満ちた、新たな「行為」の空間を切り開こうとしています。表象文化論の創造的実践をいっそう大胆かつ広範に展開していこうとするこの企てに、さらに多くの有志の方々が参加してくださることを願ってやみません。

2005年11月 表象文化論学会設立発起人一同